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コレスペハローワーク番外編「リハビリと教育と趣味を兼ねた、生涯スポーツ」

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本日は今年最後のプール活動日。
「今日は午後からプールなんだよ!」と楽しげに話してくれる在校生。でも、つい数年前までは、「車いすユーザーがプールだなんて!!」「おぼれたら誰が責任をとるんですか?」とリスクの前に議論が進まない大きな壁がありました。これは、学校だけではなく、私達を含め多くの支援者にとっても同じで、「障害を持つからあたりまえ」と、障害のラベルから脱却できなかったことによります。「それでも、泳ぐことの楽しさを味わって欲しい!」学校と病院に風穴を開けた、池田哲也先生に、秘めた思いを聞きました。

■ハロウイック水泳法とは?
「ハロウイックは、水流と浮力を利用した水泳法で、これまで60年以上も世界中で愛され大切に育てられています。潜ったり回転したり、とてもバリエーションが豊富で、上達に合わせて技術を客観的に評価することもでき、筋ジストロフィーを持つ生徒には、「呼吸リハビリ」としても最適なスポーツといえます。
 日本でもこの水泳法を取り入れたいと考えている学校も多くあり、「教育とリハビリ」を融合した実践を試みている所です。」
■何故八雲養護学校でも行おうと思ったのですか?
「それまで、多くの活動が出来なくなることは、筋ジスの生徒にとって当たり前のことだと感じていました。しかし、筋ジス協会の冊子「スポーツ挑戦しよう2」の記事で、障害を持つ生徒達が、自由にプール活動ができることを知り大変驚きました。出来ないことも多いが、工夫すれば、できることもあるんじゃないか!まずは一つ一つを形にして生徒と一緒に共有していきたいと思いました。」
■不安はなかったのですか?
「うーーん。。。不安しかなかったです(笑)。しかし、それではまったく進歩がないので自分自身の不安を取り除くためにも、八雲病院の医師、PT、OT、看護師など、多職種を巻き込み、安全の基準を考えたり、実際にすでにプールを導入している学校を見学し、不安の壁をよじ登れるよう努力しました。」
■体験した生徒からは、どんな感想がありましたか?
「初年度にプールに入った生徒の7割からは、「泳げた、体が動いた」の感想が多く聞かれました。翌年には「もっとバリエーションを増やして欲しい、プログラムが子供っぽい」といった内容です。そこから感じたのは、水の中で泳いだり体が動くことを一度経験すると、すでにそれは当たり前のことになり、次はもっと水の中での活動を楽しみたいと気持ちがだんだんと変っていくのが、人の興味の移り変わりなんだと感じました。私はそこに、困難さのためにあきらめ易い状況にある生徒達の、自尊感情(セルフエスティーム)を改善させるキーワードがあるのではと考えています。」
■先生自身の気持ちの変化は?
「プール活動は一人では始められません。多くの人の協力が必要です。しかし、ただやってみたいでは、人を動かすことはできません。人を納得させるためには、リスクと効果の整理が大切です。その上で、頭であれこれと考えているよりも、まずは実践し見える形にしていくことで、周囲の不安も次第に変っていき、自分自身も自信が持てるようになるということを気づきました。これは、生徒も同じであり、なによりそのことを一番教えられたのは自分だったと思います。
 毎年、初めてプールに入る生徒はいつも顔が引きつっていて緊張感がありありです。それが2年目には、余裕をもって楽しめるように成長しています。学校の教員、生徒など体験した人が多くなればなるほど、より自信をもってスムーズに活動を行われていると感じました。ハロウィックも今年で4年目です。以前のように、はじめから説明しなくても皆さんが理解してくれるようになりました。しかし、そういう安心にこそリスクが巣くいます。自分の行動が過信にならないように気をつけています。 
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■「ハロウイック通して学んだことを教えてください。」
・「呼吸リハビリの大切さ」
 「呼吸がいかに大切で、延命の意味を考えました。いかに元気に過ごせるか、大切な課題であると思います。
・「教育的な意義がある活動」
 同じ水泳であってもただ楽しいだけの水遊びとは違い、常にどんな授業・課題にもテーマが必要。テーマがあるからこそ生徒も教員も共に成長していくことができる。このハロウィックの導入で、教育の本来の課題を問い直すよい機会になりました。
・「教育と医療との協働」
 学校も病院も気持ちを1つにして生徒=患者の為に協働できることが分かりました。それまで行事というと学校側だけで企画していた面が多分にありました。しかし、全てを教員で囲い込むのではなく、多職種(医師、看護師、PT、OT、教師)などとベストな支援ができることで、生徒をよりのばす効果があることを感じました。知識、技能、行動力!プロの力が必要です。
・「環境作りの大切さ」
 障害がある・ないにしろ誰でも困難さを抱えると、出来ないのは仕方がないと諦めてしまうことがあります。しかし、努力すればできるようになることはたくさんあります。努力してみようと自分で思えるか思えないかは、課題を達成できるための道具や、一緒に考えてくれる人のネットワークが大切なんです。
・「リスクの管理」
 安心は自分で体験してこそ得られるものです。例えば、「畳の上の水練」の言葉通り、やってみないで心配しても、いつまで経っても安心は得られません。だからこそ、十分に安全を確保して不安の壁を乗り越える必要が、教師も生徒にも必要なのではないかと思います。
■今後ハロウイック水泳法をどのように発展していきたいですか?
 「全国展開して、みんなが楽しんでもらえたらいいと思います。全国の特別支援学校でノウハウを積み重ねて、八雲養護に教えて欲しいです。」
■最後に池田先生のプールに対するこだわりを教えてください。
「リハビリと教育と趣味を兼ねた、生涯スポーツになることを目標にしたいと思っています。今は、在校生だけのプール学習となっているので、是非とも卒業生も参加して楽しめたらいいなと考えています。馬場君も一緒に入ろうね。」
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編集後記
 新たなことに挑戦することは、様々な問題点にぶつかるものだと感じました。人の気持ちや、環境だったり、どう連携したらいいかなど、多くのことを自分に照らし合わせながら考えました。今回の取材を通して感じるのは、それでも成功した時の喜びはやはり大きいんだな!です。
 僕自身も「スポーツライター」に向けて挑戦しています。ただただ、スポーツが好きだからのきっかけで始めたことですが、今の悩みは、言葉でどう表して良いか。。。まさに悪戦苦闘の日々です。新たな挑戦には大きな壁があります。その壁を越える為に、やれることを精一杯やっています。
by たくや

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