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マルチメディアを利用した障害者雇用

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以前、日本筋ジストロフィー協会の依頼で、岩見沢にある通所授産施設クピドフェアを取材させてもらったことがありました。(99年当時)
まだ、八雲では就労という言葉さえ感じられない頃でしたが、このとき感じたものが今に生きているなと感じます。

続き

障害を持つ方の社会参加が盛んになって久しくなりますが、一般社会の雇用状況は依然厳しい状況です。
障害を持つ方を受け入れる環境の授産施設や小規模作業所の多くは、知的障害や軽度の身体障害を持つ方を対象としているため、ここでの評価基準は、スタンプを押せるか?紙を折ることができるか?などの身体能力に標準化されたものになっています。進行性に病態が変化していく筋ジストロフィー患者の場合、作業として活動を従事しにくくなる時期がきます。
このように今までの「ものさし」では、重度な身体障害を持つ筋ジストロフィー患者は、例え仕事をしたいと思っても就労対象となりませんでした。
北海道岩見沢市にある社会福祉法人クピドフェア身体障害者通所授産施設アゴラでは、マルチメディアを利用した障害者就労に取り組んでおり、その仕事内容は、CAD・3DCG・デジタルアニメーション・グラフィックデザインなど多岐に及びどれもマルチメディアの最先端の事業を展開しています。アゴラの業績は目覚しく、ゲームのCG、コマーシャルや、雑誌のデザインなどで私達が知らないうちにその活躍を目にしているかもしれません。取材当日、琉球舞踊をモーションキャプチャーでデジタル化し、3DCG映像として継承していく仕事を紹介されました。これには正直驚きです。私が今まで授産作業に抱いていたイメージとはまるで違うものであったからです。
アゴラでは、クリエイティブ集団を作ることを目標とし知的能力に価値基準をおいた授産作業を行っています。アゴラの所長である近藤さんは、「例えばベアリングの数が早く数えられる物が一番になれるところもあれば。アゴラのようにたくさん物を知っているものが英雄になれる場所があってもよいと思う。もっと、授産の仕事は各分野において特化していくことが必要なんだと思う。」と、もっといろいろなことに価値基準を置いた施設があってもよいのではないかと指摘されます。
建物の中に一歩足を踏み入れると何十台ものパソコンが騒然と並んでいてちょっとしたソフトウェア会社といった感じさえします。部屋の中は、それぞれ各部門ごとに敷居で仕切られ一人づつに専用のパソコンが提供されています。ここのプログラマーを始めパソコンを使っている人は、ほとんどが障害を持った方になり障害も違えば、入力方法も個人個人のやり方で異なり、トラックボールを使っている方もいれば、足でキーボードとマウスを操っている方もいて少しの工夫で操作性の悪さをカバーしています。仕事のペースは個人に負かされていて、疲れたら休憩コーナーで談笑とともに休んでいるようですが当然仕事は自分の責任で仕上げなくてはならなく締め切りが迫るとキツイと感じることもあるとのこと。しかし、担当分の役割を自分の責任の上で仕上げて一つの商品が完成したときの喜びは、何事にもかえがたく再びやる気が沸いてくるそうです。余談ですが、打ち上げの酒のうまさもまた格別らしい!!
「障害者がやった仕事だから質の低い仕事だとは言わせない。僕らは、クリエーターなんだから作った証をクレジットとして要求するのは当然のことです。」と話てくれたことが印象的で仕事に対しての責任とプライドが現れている言葉だと思いました。(クレジットというのは、よく映画のスタッフロールにあるようなもの)
アゴラでは同じ障害をもつ多くの先輩方が後輩の指導にあたっています。職員では「サボるなこの!!」などと言いづらいことも同じ障害の先輩ならば「尻が痛くても我慢しろ」などとお灸を据えられることもあるらしい。なによりも同じ所でつまづいた先輩方からの励ましが心強い。
アゴラの中にいると何だかとても自然な印象を受けます。何故だろうと周りを見てみると障害を持った方と健常者が一緒にタバコを吸いながら笑顔をかわしていました。そうですアゴラでは、障害を持った方と健常者の間の特別な上下関係というものが感じられないのに気がつきます。所長の近藤さんは、「アゴラにも「知っている人」と「知らない人」の差別があるんです。健常者だって知らなかったら頭を下げて教えてもらう。」と話される。
アゴラのプログラム部門で働く社本くんは、5年のキャリアで、今では、第一線でゲームのキャラクター作りなどの仕事を手がけています。彼にアゴラでの感想は?と聞くと、「ここにくる前は、障害者は教えられる人といったイメージがあり引け目や立場の違いを感じていましたが、ここでは、一緒に仕事をしているという実感があります。」と話してくれました。
今アゴラでは、在宅生活をしている障害者へSOHOによる在宅就労の扉を開こうとしています。パソコンを用いネットワークが可能になると多くの障害者にとって可能性が広がることになります。
「やっと青春が来た」と話すのは、札幌で呼吸器を装着して暮らす22歳の横田茂さんです。今彼は、チャットに凝っていて夜中の1時くらいまでパソコンに向かっているときがあるとのこと。茂くんのお母さんは、「誰かが言わないとやめないんですよ」と笑って話されます。今までこれといって好きなものがなかった彼にとってここまで興味が引くのもが見つかってお母さんとしても嬉しいようです。茂君からある時「何でもいいからパソコンで仕事がしてみたい!!」と相談されました。なんでこう思ったのだろう?一般に、22歳の呼吸器をつけて生活している男性に「なんであなたは、仕事をしないの?」と質問をしないと思います。理由を尋ねてみると、ある時自分よりも若い人から「仕事疲れたー」とメールが入っていて自分だけ何もせずにいることに申し訳けなさと恥ずかしさを覚えたそうです。できれば、自分も仕事で忙しいとメールを打って自慢したいと照れくさそうに話していました。
在宅で生活していても仕事ができないか?このような関わりの中で、茂君はアゴラの扉を叩くことになりました。
彼は今、体調をみながらゆっくりでも在宅就労に向けて3DCGの学習をしている。アゴラの担当者の方の温かい支援で定期的な訪問によりソフトの使い方、将来の展望などを語り合い、自己学習による部分をメールでのやり取りで補っています。
茂くんは、「パソコンが無い生活はもう考えられませんね。パソコンは、僕のターニングポイントです。」
「パソコンを始めるには、いくつか通らなければいけないハードルがあるが、それを通り越すとばら色の人生が待ってますのでがんばってください」と話していました。
日本での教育・医療では、平均した関わりを行っているため伸びる人が伸びないといった差別を生み出しています。平等は確かに大事ですが、頑張った人が評価される「ものさし」がないように思われます。
近藤さんは、「車椅子にのった人間は、社会との接点がごく限られたものだから健常者以上にチャンスを要求する権利があると思う。それが、障害者の権利ではないでしょうか。そして、チャンスを求めてきた時に対応できるだけの技術と環境を授産施設は整備する必要があります。」と話される。
障害者だからチャンスがない、チャンスがないから当然仕事ができない、仕事が出来ないから人材が育たない、人材も仕事もないから機械が買えない。このような負のスパイラルになってしまってはいつまでも障害を持った方は経済的に自立ができません。授産施設がインキュベーションセンターとしての社会的役割を果たしていくことで障害者も納税者となり社会を支える一員となることができると思います。
しかし、こういうところで従事するものに対して社会の恩恵に甘えて生きていると指摘されることがあるそうです。
どんなにかっこいいことを言っても、「ライフワークよりもライスワーク」、日々暮らしていくための糧は必要になります。しかし、社会に対して、技術や資源をもらうのではなく提供する。僕らも一緒になって文化を創っている。そうありたいと思っていると話されていました。
取材の最後に、立ち上げ当初から関わっているメンバーの竹内さんから話しを伺いました。
「正直なところ就労しただけで鼻高になってしまう障害を持つ者(自分を含めて)って、多いですよね?
就労しただけで、全ての目標を達成してしまったかの様な錯覚に陥り、就労していない仲間を見る目が変わってしまうことって、障害を持つ者の世界では良く有ることだと思います。私自身の心の中にも、そんな気持ちは無いとは言えません。
しかし就労することは、ハンデを背負っている者にとっては確かに高い目標であり、そこに向かっていく努力と達成したときの喜びは、その本人にとって(又は周りの人たち)は、とても大きな励みであり、健常者には考えられない程の成長と自立心を与えてくれるものだと思います。
でも、それ以上に思うことは「それだけで満足しないで、いろんなことにもっと貪欲に挑戦して!」
これが私からの唯一の願いです。」


CADチーム:10名
CGチーム:20~25名
PROGRAMチーム:5~8名
DESIGNチーム:5名前後
管理、ネットワーク、バックオフィスチーム:10名程度

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